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【行方市】創業・起業のための地域データガイド|人口・産業・支援制度でわかるビジネス環境

佐藤

霞ヶ浦と北浦に挟まれた行方市は、麻生町・北浦町・玉造町が2005(平成17)年9月2日に対等合併して誕生しました。市内に鉄道駅はなく、東関東自動車道の行方ICも建設中で未供用です。一方で農業産出額は県内市町村2位、なめがたファーマーズヴィレッジの年間利用者は14万人を超えます。人口・産業・支援制度のデータから、行方市で創業するとはどういう選択かを整理しました。

この記事でわかること

  • 行方市の人口規模・年齢構成と、そこから読み取れる客層
  • 市内に鉄道駅も供用中の高速道路ICもない、という交通条件の実際
  • 麻生・北浦・玉造という3地区の性格と、地区ごとに異なる市外との結びつき
  • 農業産出額県内2位を支える「いも類」と、かんしょブランド・観光の連鎖
  • 創業時に使える補助金・融資・相談窓口と、現時点で「ない」ことが分かっている制度

1. 行方市の基本プロフィール

項目 データ 基準時点
人口 29,217人(県内44市町村中33位) 令和7年国勢調査 速報値(2025年10月1日)
世帯数 11,184世帯 同上
人口増減(令和2年比) −2,968人(−9.2%) 同上
1世帯当たり人員 2.61人 同上
面積 222.48km² 令和8年1月1日現在
人口密度 130.2人/km² 令和8年4月1日現在
年齢構成 年少8.6%/生産年齢52.1%/高齢39.4% 令和7年10月1日現在
昼夜間人口比率 91.1(県内44市町村中31位) 令和2年国勢調査
1人当たり市町村民所得 340.9万円(県内44市町村中21位=本調査で再計算) 令和5年度
鉄道駅 市内になし 行方市都市計画マスタープラン(2024年9月)
高速道路IC 市内に供用中のICなし(東関東道行方ICは建設中・未供用) 2026年8月8日時点

2. 人口データで読む行方市

2-1. 人口規模と推移

令和7年国勢調査の速報値で、行方市の人口は29,217人。令和2年(32,185人)から2,968人、9.2%の減少です。茨城県全体の減少率2.6%と比べて6.6ポイント大きく、県内でも減少が速いエリアに位置します。

2024年(令和6年)1年間の人口動態は、出生98人・死亡620人で自然減522人、転入951人・転出985人で社会減34人、合計556人減。自然減が総減少の93.9%を占めますが、これは2024年単年の構成比であり、2020〜2025年の5年間全体を自然減・社会減に分解した数字ではありません。市の総合戦略でも、若年層の進学・就職に伴う転出超過が課題として挙げられています。

創業時の目線:人口減少率9.2%は県平均より明確に大きく、居住人口だけを商圏と見る業種には厳しい数字です。ただし後述のとおり観光入込客数は前年比118.6%と伸びており、「住んでいる人」以外の需要を組み込めるかどうかが事業設計の分かれ目になります。

2-2. 年齢構成 ― 誰が住んでいる街か

2025年10月1日時点で、年少人口(0〜14歳)8.6%、生産年齢人口(15〜64歳)52.1%、高齢人口(65歳以上)39.4%。高齢化率39.4%は県平均を大きく上回る水準です。

創業時の目線:高齢者向けの生活支援・訪問系サービス、医療・介護関連の需要が相対的に大きい一方、生産年齢人口の比率は5割強にとどまります。現役世代向け業態は、居住人口だけでなく後述する昼間の流出入や観光客まで含めて市場を見積もる必要があります。

2-3. 世帯構成 ― 単価と客層を決める要素

世帯数11,184世帯、1世帯当たり人員は2.61人で、茨城県平均の2.29人を上回ります。単身・二人世帯化が進む都市部とは逆に、複数人世帯がなお多い構成です。

創業時の目線:ファミリー向けの内容量・容量設計や、世帯単位でのまとめ買い・配送需要が相対的に成立しやすい素地があります。一方で高齢化率39.4%と重ねると、「複数人だが高齢の世帯」も一定数含まれる点は見落とせません。

2-4. 昼間人口と商圏 ― 「住んでいる人」だけが客ではない

令和2年国勢調査では、行方市の昼間人口29,320人に対し夜間人口32,185人で、昼夜間人口比率は91.1(県内44市町村中31位)。日中は夜間人口より2,865人少なく、通勤・通学で市外へ出ている人が多いことを示します。

地区別の市外との結びつきを見ると、麻生地区は潮来・鹿嶋方面、北浦地区は鉾田方面、玉造地区は鉾田・小美玉・かすみがうら・土浦方面との流動が目立ちます(2020年国勢調査ベース)。

創業時の目線:昼夜間人口比率91.1は「昼間に人が流出する街」であることを意味します。平日昼間に地元客だけで成立するビジネスより、朝夕や休日、あるいは観光・農業関連の来訪者を取り込める業態のほうが行方市では戦いやすいといえます。

2-5. 外国人・学生など特徴的な層

外国人住民は3,671人(2025年12月31日現在)。国籍別ではベトナム732人、フィリピン643人、インドネシア473人、タイ471人、中国452人の順です。翌日(2026年1月1日)の住民基本台帳人口30,834人を分母にした参考比率は約11.9%ですが、分子と分母の基準日が1日異なる参考値であり、同日時点の正確な割合ではありません。

なお、学生・大学等に関する公表データは、本調査の範囲では確認できませんでした。

創業時の目線:外国人住民の参考比率が約1割前後という規模感は、多言語対応の生活支援サービスや、ベトナム・フィリピン・インドネシアなど特定国籍向けの食材・生活関連ビジネスを検討する材料になります。ただし実際の需要規模は個別に確認が必要です。


3. エリア別の特徴 ― どこで開業するかで別のビジネスになる

行方市は2005(平成17)年9月2日、行方郡の麻生町・北浦町・玉造町が廃止合併し新設された市です(新設合併・対等合併)。3町はそれぞれ性格が異なり、開業する地区によって商圏の結節先が変わります。

① 麻生地区

霞ヶ浦東岸の行政・生活拠点で、市役所本庁舎が置かれています。国道355号沿線に商業施設が集積し、潮来・鹿嶋方面との通勤通学・交通結節が比較的強いエリアです。セイミヤモール麻生店(1996年11月開店、店舗面積4,691m²)が立地します。

② 北浦地区

北浦西岸の農村・集落地域。鉾田方面との結びつきが強く、市の公共交通計画では移動空白地域への対応が課題として挙げられています。北浦複合団地(総面積174.4ha、分譲中61ha)が立地する、市内の工業立地の一角です。

③ 玉造地区

霞ヶ浦北東岸に位置し、国道354号・355号周辺に商業・観光機能が集まります。鉾田・小美玉・かすみがうら・土浦方面との結びつきがあり、霞ヶ浦ふれあいランドや観光物産館こいこいが立地します。ベイシア玉造店(2002年11月開店、店舗面積12,557m²)もこのエリアです。

創業時の目線:行方市は一つの中心商圏を持つ街ではありません。店舗・配送・採用計画は「麻生なら潮来・鹿嶋方面」「北浦なら鉾田方面」「玉造なら土浦方面」というように、地区ごとに市外との結節先を分けて設計する必要があります。市内に鉄道駅も供用中の高速道路ICもないため、どの地区でも自動車での来店・アクセスが前提になります。


4. 産業構造 ― この街のお金はどこから来るのか

4-1. 産業別の就業者構成

令和2年国勢調査ベースで、第1次産業22.44%、第2次産業28.43%、第3次産業49.13%。県内平均と比べて第1次産業の比率が際立って高く、農業が基幹産業であることが数字にも表れています。

4-2. 事業所数・従業者数

経済センサスに基づく事業所数・従業者数の行方市単独の最新値は、本調査の一次資料からは確認できませんでした。産業別の就業者数(2020年国勢調査)は、第1次産業3,923人、第2次産業4,971人、第3次産業8,590人、分類不能100人、就業者総数17,584人です。

4-3. 商業(卸売・小売)の市場規模

年間商品販売額は413億円(令和2年)。経済センサス報告書PDFの卸売・小売の内訳は、県内他市の記事作成時に数値の再現性が確認できなかったため、本記事では総額のみを掲載しています。

4-4. 製造業・農業など地域の基幹産業

製造品出荷額等は508億円(令和5年、従業者4人以上の事業所)。市内には神山・鉾田工業団地(全12区画、分譲中1区画)、北浦複合団地(総面積174.4ha、分譲中61ha)があり、産業用機械・食品加工・繊維・建設資材関連など多様な業種の立地企業が確認できます。

農業では、2023年の農業産出額が267.9億円で、茨城県内44市町村中2位。うち「いも類」は88.2億円で、こちらも県内市町村2位です。「いも類」は統計上の区分であり、かんしょ(さつまいも)単独の産出額ではありません。行方市単独のかんしょ産出額は一次資料からは確認できていません。 かんしょは「旭甘十郎」「行方の黄福」としてブランド化され、JAなめがたしおさい甘藷部会連絡会が生産を担っています。同部会は2017年に日本農業賞大賞・農林水産祭天皇杯を受賞しました。

農業×観光の象徴が、旧小学校を活用した農業体験型テーマパーク「なめがたファーマーズヴィレッジ」(2015年10月30日開業)です。2024年の利用者は140,052人。観光客動態調査による市全体の年間観光入込客数は567,200人(2024年、前年比118.6%)で、霞ヶ浦ふれあいランド、あそう温泉白帆の湯、観光物産館こいこいなど複数施設に分散しています。

創業時の目線:「農業産出額県内2位・いも類も県内2位」という数字は、生産だけでなく加工・EC・ギフト・飲食・観光体験・農業機械や省力化サービスまで、農業を核にした周辺ビジネスの余地が広いことを示します。ただし「いも類88.2億円」を「かんしょ産出額」と混同した発信は誤りなので、事業計画や広報でも区別して使う必要があります。


5. 行方市を代表する企業 ― 取引先候補として

行方市に登記上の本店を置く主な企業です(gBizINFOで本店所在地を確認)。

企業名 所在地 主な事業
株式会社池貝 行方市芹沢920-52 産業機械・工作機械等
株式会社池貝ディーゼル 行方市芹沢920-52 ディーゼルエンジン等
株式会社倉川製作所 行方市内宿976 製造業
株式会社レイク 行方市麻生3298-6 カーテン・インテリア繊維製品
株式会社フィルド食品 行方市手賀1527-1 食品製造
株式会社啓生運輸 行方市麻生2797-1 運輸業
株式会社光建 行方市四鹿1 建設業
株式会社なめがたしろはとファーム 行方市宇崎1561 農業・食品・農業観光(なめがたファーマーズヴィレッジ運営企業の一つ)

本社は市外にあるものの、神山・鉾田工業団地などに拠点を置く進出企業も複数あります。

企業名 登記上の本店 市内拠点
株式会社ルーサイト・ジャパン 東京都台東区 茨城事業所(神山・鉾田工業団地)
株式会社トアック 東京都千代田区 茨城工場(同団地)
板橋精機株式会社 東京都豊島区 玉造工場(同団地)
いばらきコープ生活協同組合 小美玉市 鉾田センター(同団地)
株式会社検査開発 那珂郡東海村 玉造事業所(同団地)

創業時の目線:本店企業は製造業・運輸・農業食品関連が中心で、上場企業や金融機関の本店はありません。BtoBの営業先としては、工業団地に立地する進出企業の事業所・工場も含めて候補に加えるのが現実的です。


6. 創業支援制度とお金の話

6-1. 特定創業支援等事業(まず最初に取るべき証明)

行方市の創業支援等事業計画は2016(平成28)年12月26日認定、計画期間は2017(平成29)年4月1日〜2029(令和11)年3月31日。特定創業支援等事業は行方市商工会の「創業スクール」で、経営・財務・人材育成・販路開拓の4分野を継続して学び、市の証明書交付を受ける仕組みです。2026年度の具体的な開催日程は本調査時点では確認できていません。

証明書取得による主な優遇は次のとおりです。

優遇内容 具体的な効果
登録免許税の軽減 税率0.7%→0.35%(株式会社15万円→7.5万円、合同会社6万円→3万円)
創業関連保証の特例 通常「事業開始2か月前」から対象のところ、6か月前から利用可(保証限度額3,500万円)
日本政策金融公庫 新規開業・スタートアップ支援資金の基準利率から0.40%引下げ(融資限度額7,200万円)
小規模事業者持続化補助金〈創業型〉 補助上限200万円・補助率3分の2

窓口:行方市商工会(行方市麻生1222-1/0299-72-0520)、行方市商工観光課(行方市山田2564-10・北浦庁舎/0291-35-2111)、日本政策金融公庫土浦支店(0570-012646)、茨城県信用保証協会(029-224-7812)。

6-2. 市独自の補助金

創業者本人へ直接交付する市独自の一般創業補助金は、本調査時点では確認できていません。 行方市の「創業支援事業補助金」は、特定創業支援等事業を実施する商工団体等に交付する制度であり、創業者個人への直接補助ではない点に注意が必要です。

近接する制度として、行方市地域ブランド力向上支援事業補助金があります。市内の農畜水産物等を活用した新商品開発・販路開拓等が対象で、補助率2分の1・上限200万円。2026年5月1日〜2027年2月26日、予算到達まで受付中です(一般的な開業費補助ではなく、地域産品を使う商品・販路開拓型の制度)。

創業時の目線:「創業したら市から補助金がもらえる」という前提で資金計画を組むのは危険です。行方市では創業者個人への直接補助が確認できておらず、頼れるのは登録免許税や信用保証の優遇、国の持続化補助金〈創業型〉、そして農産物活用に限定された地域ブランド力向上支援事業補助金です。

6-3. 融資・制度融資

制度 限度額 条件
自治金融 設備資金1,000万円/運転資金1,000万円 10年以内(設備は据置1年以内)、信用保証料は市が全額補助
振興金融 設備資金2,000万円/運転資金1,000万円 同上

いずれも「市内に住所と事業所を有し、同一事業を1年以上継続、市税を完納」等が要件で、創業直後は「1年以上継続」の要件により対象外となる可能性があります。金利水準や利子補給の有無は市の公開資料からは確認できていません。

創業時の目線:開業直後の資金調達は、市の自治金融・振興金融ではなく、茨城県の創業支援融資や日本政策金融公庫が現実的な選択肢になります。市の制度融資は、事業を1年以上継続した後の追加資金という位置づけで考えるのが安全です。

6-4. 相談窓口・コワーキング

  • 行方市商工会:行方市麻生1222-1/0299-72-0520
  • 行方市商工観光課:行方市山田2564-10(北浦庁舎)/0291-35-2111

公設のコワーキングスペース・インキュベーション施設については、所在地・料金とも本調査時点では確認できませんでした。相談の入り口は、まず商工会・商工観光課になります。


7. 開業手続きの窓口(保健所・許認可・税務)

  • 飲食店営業許可・食品営業届出:行方市は保健所を設置していないため、茨城県潮来保健所 衛生課(潮来市大洲1446-1/食品担当0299-66-2117)が窓口です。
  • 法人市民税:法人税割6.0%、均等割は資本金等1,000万円以下かつ市内従業者50人以下で年50,000円
  • 事業所税:行方市税条例には事業所税の課税章・税率規定が確認できず、課税団体ではないと判断できますが、将来の条例改正まで保証するものではないため、出店時は市税務課へ最終確認することをおすすめします。

8. 行方市で創業するときのチャンスとリスク

チャンス

  1. 農業産出額県内2位、いも類も県内2位 ― かんしょブランド「旭甘十郎」「行方の黄福」と、なめがたファーマーズヴィレッジ(年間利用者140,052人)を軸にした加工・観光・EC分野の余地
  2. 観光入込客数567,200人、前年比118.6% ― 霞ヶ浦・北浦の水郷景観と複数の観光施設を回遊させる商品開発の余地
  3. 工業団地に分譲余地あり ― 神山・鉾田工業団地、北浦複合団地とも一部区画・面積が分譲中で、投下固定資産・雇用に応じた企業立地優遇制度がある
  4. 地域ブランド力向上支援事業補助金(上限200万円) ― 農畜水産物を使った新商品開発・販路開拓は受付中

リスク

  1. 人口減少率9.2%(令和2年比)は県平均2.6%より明確に大きく、高齢化率も39.4%に達している
  2. 市内に鉄道駅がなく、供用中の高速道路ICもない(東関東道行方ICは建設中・未供用)。自動車アクセス前提の立地・営業時間設計が必須
  3. 創業者本人への直接補助金は確認できていない。「創業支援事業補助金」は商工団体等向けで個人向けではない
  4. 移住支援金(わくわく茨城生活実現事業)は2026年8月8日時点で受付停止中。移住を前提にした資金計画には組み込めない

創業予定であれば、まず行方市商工会の創業スクール(特定創業支援等事業)で証明書を取得し、登録免許税の軽減や創業関連保証の前倒しといった国の優遇を確保したうえで、地域ブランド力向上支援事業補助金や県の創業支援融資など、実在が確認できている制度を積み上げていくのが現実的な進め方です。


データ出典

免責:補助金・融資制度は年度ごとに内容や募集状況が変わります。申請前に必ず各窓口(行方市商工観光課 0291-35-2111 ほか)で最新情報をご確認ください。特に移住支援金は2026年8月8日時点で受付停止中であり、創業者本人への直接補助金は本調査時点で確認できていません。本記事の数値は2026年8月8日時点で公表されていたデータに基づいています。

ABOUT ME
佐藤
佐藤
税理士・公認会計士
東京都立大学(旧・首都大学東京)を卒業後、KPMGあずさ監査法人に入所。銀行・証券会社をはじめとする日系金融機関を中心に、監査業務に従事してまいりました。その後、茨城県つくば市にて税理士事務所を開設し、現在に至ります。
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