株式譲渡と事業譲渡の違いとは?最適なM&Aスキームを選ぶ手順
「会社を丸ごと売るのと、一部の事業だけ売るのって、何がどう違うの?」
M&Aを検討し始めたとき、多くの経営者がぶつかる疑問の一つがこれです。
実は、会社の売り方(M&Aスキーム)をどう選ぶかによって、手元に残るお金も、かかる税金も、買い手の見つけやすさもまったく変わってきます。
にもかかわらず、スキームの選択を仲介業者に任せきりにしてしまうケースは少なくありません。
この記事では、M&Aの代表的なスキームである「株式譲渡」と「事業譲渡」の違いを整理し、自社にとって最適なスキームを選ぶための手順を解説していきます。
この記事でわかること
- 株式譲渡と事業譲渡の基本的な仕組みの違い
- それぞれのスキームのメリットとデメリット
- 「のれんの節税効果」とは何か
- 売却代金の受け取り方と税金の違い
- 買い手が見つかりやすいスキームはどちらか
- 自社に最適なスキームをフローチャートで選ぶ方法
「スキームの話って難しそう」と感じるかもしれませんが、大丈夫です。
専門用語はすべて噛み砕いて説明しますので、安心して読み進めてください。
この記事の全体像
まず、この記事がどんな流れで進むのかをざっくりお伝えしておきます。
- 基本用語の整理
「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」「のれん」など、聞き慣れない言葉もたとえを交えて説明します。 - 2つのスキームを徹底比較
税金、手残り、買い手の探しやすさなど、実務で重要なポイントを整理します。 - 最適なスキームを選ぶフローチャート
自社の状況に合わせて選ぶためのメインパートです。 - 具体的なケーススタディ
スキーム選びのリアルなイメージをお伝えします。
順番に読み進めていただければ、「自分の場合はどれが良さそうか」が見えてくるはずです。
知っておくべき基礎用語
本題に入る前に、この記事で登場するキーワードを整理しておきましょう。ここを押さえておくだけで、後の説明がぐっとわかりやすくなります。
株式譲渡
株式譲渡とは、経営者が持っている会社の株式を買い手に渡すことで、会社の所有権を移す方法です。
たとえるなら、「家ごと売る」ようなイメージですね。
建物も土地も家具もまるごと、新しいオーナーに引き渡し、売却代金は経営者個人に直接入ってくるのが特徴です。
事業譲渡
事業譲渡とは、会社そのものは残したまま、特定の事業や資産だけを買い手に売る方法です。
こちらは「家の中の家具や設備だけを選んで売る」ようなイメージです。
会社という器は手元に残ります。
売却代金は経営者個人ではなく「会社」に入るという点が、株式譲渡との大きな違いです。
会社分割
会社分割とは、会社の中にある事業を切り出して、別の会社に移す方法です。
「家の一部屋を別の建物としてごっそり移築する」ようなイメージですね。
事業譲渡と似ていますが、法律上の手続きや税務上の扱いが異なります。
会社分割には、「ヨコの会社分割」と呼ばれる手法もあり、株式譲渡系スキームの一つとして使われることがあります。
のれん(営業権)
のれんとは、帳簿に載っていない会社の価値のことです。
- ブランド力
- 顧客基盤
- 従業員のノウハウなど、
目に見えない強みを金額に換算したものですね。
事業譲渡の場合、この「のれん」に大きな節税効果が生まれることがあります。
これが買い手にとって魅力的に映るため、事業譲渡では高値がつきやすいと言われています。
株式譲渡系と事業譲渡系の違いを徹底比較
ここからが本題です。M&Aのスキームは大きく「株式譲渡系」と「事業譲渡系」の2つに分かれます。
それぞれのメリットとデメリットを、実務で重要な4つの視点から比較していきましょう。
| 比較項目 | 株式譲渡系 | 事業譲渡系 |
| 代金の受取人 | 経営者(株主)個人 | 会社(法人) |
| 主な税金 | 所得税(約20%) | 法人税(約30%) |
| リスクの引継ぎ | 丸ごと引き継ぐ | 必要なものだけ選べる |
| 手続きの難易度 | 比較的シンプル | 非常に煩雑 |
視点1:売却代金は誰が受け取るのか
株式譲渡系では、売却代金は経営者個人の口座に直接振り込まれます。
自分のお金として自由に使えるので、引退後の生活資金やセカンドキャリアへの投資に充てやすいのがメリットです。
一方、事業譲渡系では、売却代金は会社に入ります。
経営者個人がそのお金を手にするには、役員報酬や退職金、配当などの形で会社から引き出す必要があります。
ここが実はかなり重要なポイントなんですよね。
会社から個人にお金を移す際には、法人税に加えて所得税もかかるため、手取り額が大きく目減りするケースがあります。
視点2:税金はどれくらい違うのか

いずれも、税金がかかるケースにおいてはどう違うのか?という前提でお話を進めていきます
株式譲渡系の場合、経営者個人にかかる税金は「株式の譲渡所得税」です。
税率は約20%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税)と、比較的シンプルに計算できます。
事業譲渡系の場合は少し複雑です。
まず会社に売却代金が入った時点で法人税(約30%前後)がかかります。
そこから経営者個人にお金を移す段階で、さらに所得税がかかります。
ただし、退職金として受け取る場合は税制上の優遇があるため、うまく設計すれば税負担を抑えられる可能性もあります。
ここは税理士としっかり相談しておきたいところです。
視点3:買い手は見つかりやすいか
ここは事業譲渡系に軍配が上がることが多いと言われています。理由は2つあります。
- リスクの遮断:事業譲渡では、買い手は欲しい事業や資産だけを選んで買うことができます。
つまり、過去の負債や簿外債務(帳簿に載っていない借金)を引き継ぐ必要がありません。 - のれんの節税効果:事業譲渡で発生するのれんは、買い手側で「償却」できます。
ざっくり言うと、買収にかけたお金の一部を毎年の経費として計上でき、税金を減らせるということです。
一方、株式譲渡系は会社をまるごと引き継ぐため、不要な資産や隠れた負債まで一緒についてきます。
買い手としてはリスクが読みにくく、慎重になりやすい面があります。
視点4:手続きの手間はどうか
株式譲渡系は手続きが比較的シンプルです。
株式の売買契約を結び、株主名簿を書き換えれば、基本的には完了します。
事業譲渡系は、移す資産や契約を一つひとつ特定して引き継ぐ必要があるため、手続きが煩雑になりがちです。
従業員の雇用契約、取引先との契約、許認可など、個別に移行手続きが発生します。

事業譲渡の場合、その事業に紐づく債権を移動させる場合には、債権者保護手続等も必要になります
「とにかくスピーディーに済ませたい」という場合は、株式譲渡のほうが向いていることもあります。
フローチャートで選ぶ!最適なスキームの見極め方
「結局どっちがいいの?」と思った方も多いはずです。
実は、どちらが正解かは一概には言えません。
以下の手順を参考に、自社に合ったスキームを考えてみてください。
ステップ1:何を売りたいかを明確にする
まず最初に考えるべきは、「会社全体を売りたいのか、一部の事業だけを売りたいのか」です。
- 会社全体を売りたい場合 → 株式譲渡系が基本の選択肢になります。
- 特定の事業だけを売りたい場合 → 事業譲渡系が自然な選択です。
ステップ2:手残りの優先度を確認する
次に考えるのは、「経営者個人の手取り額をどれだけ重視するか」です。
- 手取り額を最優先したい場合 → 株式譲渡系のほうが有利なケースが多いです。
- 売却額の総額を重視したい場合 → 事業譲渡系も選択肢に入ります。
ステップ3:買い手の見つけやすさを考慮する
- 買い手がなかなか見つからない状況 → 事業譲渡系を検討する価値があります(リスク遮断効果)。
- すでに複数の買い手候補がいる状況 → 株式譲渡系でも十分交渉できる可能性があります。
ステップ4:会社に残したい資産があるか
株式譲渡で会社をまるごと売ると、個人的な資産(社用車や不動産など)も引き渡すことになります。
残したい資産がある場合は、「ヨコの会社分割」という手法を使い、売りたい事業だけを新会社に移してから株式譲渡するというハイブリッドなやり方も可能です。
具体的なケースで考えてみよう
ケース1:会社を引退して、手元にまとまったお金が欲しい場合
60代の経営者で、後継者がおらず、引退資金に充てたいケース。
- 最適解:株式譲渡
- 理由:売却代金が個人に直接入り、税率も約20%で済むため、手残りが計算しやすいため。
ケース2:赤字部門だけを切り離して、本業に集中したい場合
複数の事業を展開しており、一部の赤字部門だけを売却したいケース。
- 最適解:事業譲渡
- 理由:売りたい事業だけをピンポイントで売却でき、会社の本業には影響を与えないため。
ケース3:会社を売りたいが、不要な資産がたくさんある場合
遊休不動産など、買い手が欲しがらない資産が多いケース。
- 最適解:ヨコの会社分割 + 株式譲渡
- 理由:売りたい事業だけを新会社に移して売却することで、株式譲渡の税メリットを活かしつつ不要資産を切り離せるため。
- ただし、詐害行為に注意
-
「不要な資産や負債を旧会社に残し、新会社を立てて再スタートする」という手法は、一見効率的に見えますが、実は「詐害行為(さがいこうい)」とみなされる大きなリスクを秘めています。
もし、債権者の利益を不当に害すると判断されれば、資産の移動そのものが取り消されたり、損害賠償を請求されたりと、せっかく作った新会社まで共倒れになりかねません。
おわりに
今回は、株式譲渡と事業譲渡の違いを中心に解説しました。
改めて要点を振り返ると、以下のとおりです。
- M&Aスキームは大きく「株式譲渡系」と「事業譲渡系」に分かれる
- 株式譲渡系は代金が個人に入り、税率が約20%とシンプル
- 最適なスキームは「売りたい対象」「手残りの優先度」「買い手の見つけやすさ」で決まる
スキーム選びは、M&Aの成果を大きく左右します。
最初からすべてを完璧に理解する必要はありませんが、「スキームによって結果が変わる」という事実を知っておくだけで、専門家との相談がぐっとスムーズになります。
まずは今回のフローチャートを参考に、あなたの会社がどのパターンに近いか考えてみてください。

