【業種別M&A】建設業・工務店の売却動向!買い手が重視する資格と人材
「うちの建設会社、誰かに引き継いでもらえるんだろうか」
建設業界で事業承継を考えたとき、こんな不安を感じている方は少なくないのではないでしょうか。
職人の高齢化、後継者の不在、慢性的な人手不足。
建設業を取り巻く環境は年々厳しさを増していると言われています。
一方で、建設業界のM&Aは近年活発化しているとも言われています。
その背景には、買い手企業にとって「有資格者と熟練の職人」が非常に魅力的な経営資源だという事情があるんですよね。
この記事では、建設業・工務店のM&Aにおいて、買い手がどこを見ているのか、何が売却価格を左右するのかを整理していきます。
この記事でわかること
- 建設業M&Aが活発化している背景と売却動向
- 買い手が最も重視する「有資格者」と「職人の技術力」の評価ポイント
- 建設業許可と有資格者の継続雇用が持つ意味
- 財務デューデリジェンス(DD)で注意される建設業特有のリスク
- 工事進行基準・完成基準に伴う売上計上のズレとその影響
- 「未成工事支出金」を使った粉飾決算のリスクと見抜き方
- 売却価格を高めるために売り手が準備すべきこと

一つずつかみ砕いて解説しますので安心してください。
順番に見ていきましょう。
この記事の全体像
まず、記事全体の流れをお伝えしておきます。
はじめに、建設業M&Aに関わる基本的なキーワードを整理します。
「施工管理技士」「建設業許可」「未成工事支出金」など、聞き慣れない用語もわかりやすく説明していきますね。
次に、建設業M&Aで買い手が最も重視するポイントを解説します。
有資格者と職人の技術力がなぜそこまで大切なのかが見えてくるパートです。
続いて、財務DDにおいて建設業特有のリスクとして注意される項目を取り上げます。
売上計上のタイミングや原価管理の実態など、この業界ならではの落とし穴を紹介するパートになります。
最後に、建設業の具体的なM&A事例と、売り手が準備すべきポイントをまとめます。
知っておくべき基礎知識
本題に入る前に、建設業M&Aを理解するために押さえておきたいキーワードを整理しましょう。
建設業許可
建設業許可とは、一定規模以上の建設工事を請け負うために必要な許可のことです。
都道府県知事または国土交通大臣から取得します。
この許可がなければ、500万円以上(建築一式工事の場合は1,500万円以上)の工事を受注できません。
つまり、建設業許可は事業を継続するための「免許証」のようなものですね。
許可を維持するためには、専任の技術者(有資格者)を常勤で配置し続ける必要があります。
ここが、建設業M&Aにおいて有資格者の存在が特に重視される大きな理由です。
施工管理技士
施工管理技士とは、建設工事の施工計画や品質管理、安全管理などを担う国家資格者のことです。
建築・土木・電気・管工事・造園・建設機械の6種類があり、それぞれ1級と2級に分かれています。
たとえるなら、建設現場における「監督兼品質責任者」のような存在ですね。
この資格を持つ人がいなければ、一定規模以上の工事を元請けとして受注することができません。
1級施工管理技士は取得の難易度が高く、人材市場での価値が非常に高いと言われています。
M&Aにおいても、1級施工管理技士が何名在籍しているかは買い手の関心が非常に高いポイントです。
未成工事支出金
未成工事支出金とは、まだ完成していない工事に対して、すでに発生している原価(材料費・外注費・労務費など)を一時的にプールしておく勘定科目のことです。
わかりやすく言えば、「まだ売上として計上していない工事のために使ったお金の仮置き場」のようなイメージですね。
工事が完成して売上を計上するタイミングで、この未成工事支出金が原価に振り替えられます。
一般の製造業で言うところの「仕掛品」に近い位置づけです。
この科目は、後述するように粉飾決算に利用されやすいという特徴があります。
建設業のM&Aにおいて、買い手が特に注意深くチェックする項目の一つです。
工事進行基準と工事完成基準
建設業の売上を計上するタイミングには、大きく2つの基準があります。
工事完成基準とは、工事がすべて完了した時点で売上を一括計上する方法です。
一方、工事進行基準とは、工事の進捗度に応じて段階的に売上を計上していく方法になります。
たとえるなら、完成基準は「料理が全部できてからお金をもらう」方式で、進行基準は「前菜・メイン・デザートとコースが進むごとに少しずつお金をもらう」方式ですね。
どちらの基準を適用しているかによって、同じ工事でも各期の売上や利益の見え方が大きく変わります。
この違いを理解しておかないと、決算書の数字を正しく読み解けないので注意が必要です。
建設業M&Aで買い手が重視するポイント
ここからが本題です。
建設業のM&Aで、買い手はどこを見て企業価値を判断しているのかを整理していきます。
有資格者の人数と継続雇用
建設業M&Aにおいて、買い手が最も重視すると言っても過言ではないのが「有資格者の人数」です。
先ほど触れたように、建設業許可を維持するためには専任技術者の配置が必要になります。
許可が失効すれば、大型の工事を受注できなくなるため、事業の根幹が揺らいでしまいますよね。
特に1級施工管理技士や1級建築士は、取得までに実務経験と学習の両方が求められる難関資格です。
採用市場で獲得するのも簡単ではなく、M&Aによって一度に複数名の有資格者を確保できることは、買い手にとって大きなメリットになります。
そのため、売却を検討する際には「有資格者が何名いて、M&A後も継続して働いてくれるか」が極めて重要なポイントとなります。
逆に言えば、M&A後に有資格者が退職してしまうリスクがあると、売却価格は大幅に下がる可能性があるんですよね。
職人の技術力と定着率
有資格者と並んで評価されるのが、現場で施工を担う「職人の技術力」です。
建設業は、人の手による作業が品質に直結する業界です。
ベテラン職人が持つ施工技術や現場対応力は、マニュアル化しにくい「無形の資産」と言えます。
買い手が注目するのは、以下のような点です。
- 熟練した職人が何名在籍しているか
- 若手への技術伝承が進んでいるか
- 従業員の平均勤続年数や離職率はどうか
- 自社雇用の職人がどれくらいの比率を占めるか
外注に依存しすぎている場合、M&A後に外注先との関係が変わるリスクも指摘されています。
自社で抱えている技術者・職人の層が厚いほど、企業としての安定性が高く評価される傾向にあります。
建設業許可の種類と業種数
建設業許可には29の業種区分があり、持っている許可の種類が多いほど受注できる工事の幅が広がります。
たとえば、建築一式工事だけでなく、電気工事や管工事の許可も持っている会社は、ワンストップで対応できる強みがあるため、買い手からの評価が高くなります。
また、特定建設業許可(元請けとして下請けに4,500万円以上を発注できる許可)を取得しているかどうかも大きなポイントです。
一般建設業許可と比べて取得のハードルが高い分、持っていれば企業価値の底上げにつながります。
受注先の構成と安定性
どこから仕事をもらっているかという「受注先の構成」も、買い手がチェックするポイントです。
特定の元請け企業1社に売上の大半を依存している場合、M&A後にその取引関係が変わってしまうリスクがあります。
複数の発注元から安定的に受注しているほうが、事業の継続性という面で評価されやすくなりますね。
公共工事の受注実績がある場合、その入札参加資格や経営事項審査の評点も重要な評価材料です。
財務DDで注意される建設業特有のリスク
建設業M&Aでは、買い手が行う財務デューデリジェンス(DD)において、他の業界にはない独特のリスクがチェックされます。
ここでは、特に注意すべきポイントを見ていきましょう。
売上計上タイミングのズレ
先ほど基礎知識の項目で触れた「工事進行基準」と「工事完成基準」の適用に伴い、売上の計上タイミングにズレが生じることがあります。
たとえば、工事完成基準を採用している場合、工期が長い案件では完成するまで売上がゼロになります。
しかし原価は先に発生しているので、ある期は赤字に見え、完成した期に一気に売上と利益が計上されるという現象が起きるんですよね。
この結果、期ごとの利益が大きくブレるため、「安定して利益が出ている会社なのか」を判断しにくくなります。
買い手の財務DDでは、工事ごとの進捗状況と売上計上のタイミングを詳しく照合し、実態としての収益力を把握する作業が行われます。
未成工事支出金を使った原価の繰り延べ
建設業の財務DDで最も警戒されるのが、「未成工事支出金」を利用した粉飾決算です。
仕組みはこうです。
本来、ある工事で発生した原価は、その工事の売上と対応させて費用計上すべきものです。
ところが、赤字工事の原価を「まだ完成していない別の工事の未成工事支出金」に紛れ込ませることで、当期の原価を実際よりも少なく見せることができてしまいます。
つまり、「赤字工事が出ているのに、帳簿上は利益が出ているように見せかける」ことが可能になるわけです。
この手口は建設業界で多発しやすいと指摘されています。
工事ごとの原価管理が不十分な会社ほど、意図的・非意図的を問わず、こうしたズレが起きやすい環境にあります。
買い手のDDでは、未成工事支出金の中身を工事案件ごとに分解して、実態と合っているかを厳しく検証することになります。
赤字工事の発見と受注案件の採算性
建設業では、受注した工事がすべて利益を生むとは限りません。
競争入札で無理な値引きをして受注した案件や、追加工事が発生して当初の見積もりを大幅に超過した案件など、赤字工事が発生するリスクは常に存在します。
買い手のDDでは、案件ごとの採算性管理がどの程度しっかり行われているかが重要な評価ポイントです。
具体的には、以下のような点がチェックされます。
- 工事案件ごとに予算と実績の管理ができているか
- 赤字工事が発生した場合に早期に把握できる仕組みがあるか
- 進行中の工事に追加コストが見込まれていないか
- 完成工事の粗利率が同業他社と比較して妥当な水準か
こうした管理体制が整っている会社は、買い手から見て「安心して買える会社」と評価されやすくなります。
売上債権の不良化リスク
建設業では、工事代金の回収が遅れるケースも少なくありません。
特に、元請けからの入金サイトが長い場合や、発注者の経営状態が悪化している場合には、売上債権(完成工事未収入金)が不良債権化するリスクがあります。
買い手のDDでは、長期間滞留している売上債権がないか、回収の見込みが立たない債権が残っていないかを確認します。
売上が計上されていても、実際にお金が入ってこなければ意味がありませんよね。
特に建設業は、工事代金が数千万円から数億円に及ぶ案件もあるため、1件の不良債権が財務に与えるインパクトが大きい点にも注意が必要です。
建設業M&Aの具体的なケース
ここでは、建設業のM&Aにおいてよく見られるパターンを紹介します。
有資格者の確保を目的とした買収
ある中堅ゼネコンが、地方の工務店を買収したケースを考えてみましょう。
買い手が最も重視したのは、工務店に在籍する1級建築施工管理技士3名と、20年以上のキャリアを持つ大工職人の存在だったと言われています。
買い手企業は都市部での事業拡大を進めていましたが、施工管理技士の採用がなかなかうまくいっていませんでした。
M&Aによって有資格者と職人をまとめて確保できたことで、新たなエリアでの受注体制を一気に構築できた形です。
このケースでは、有資格者のM&A後の継続雇用が基本合意の段階から条件に組み込まれていました。
また、職人の待遇維持も明文化されたことで、売り手側の経営者も安心して引き継ぎを進められたとのことです。
設備工事会社の売却
空調・給排水設備工事を手がける会社のM&Aでは、少し異なるポイントが評価されます。
設備工事は、建築工事の中でも専門性が高く、管工事施工管理技士などの有資格者が不可欠です。
さらに、メーカーとの取引関係や、メンテナンス契約による安定した収益基盤も評価対象になります。
一方で、財務DDでは設備工事特有の問題もチェックされます。
たとえば、長期のメンテナンス契約に含まれる将来の修繕義務が、簿外債務として潜んでいないかという点です。
こうしたケースでも、やはり技術者の継続雇用が売却条件の核心になることが多い傾向にあります。
公共工事の受注基盤を活かした事例
公共工事を中心に受注している土木建設会社の場合、経営事項審査(経審)の評点や入札参加資格の維持が企業価値に直結します。
買い手としては、自力で入札資格を取得するには時間がかかるため、すでに実績と評点を持っている会社を買収するほうが効率的です。
ただし、経審の評点は技術者の人数や完成工事高によって変動するため、M&A後に人材が流出すると評点が下がるリスクも考慮されます。

建設業M&Aでは「人材の継続雇用」が最重要テーマです。
売却価格を高めるために売り手が準備すべきこと
最後に、建設業・工務店を売却する際に、売り手として事前に準備しておきたいポイントをまとめます。
有資格者・職人の処遇を整理しておく
売却価格に最も大きな影響を与えるのは、「有資格者と職人がM&A後も働き続けてくれるかどうか」です。
事前にキーパーソンとなる社員の意向を把握し、待遇面の希望や不安をヒアリングしておくことが大切になります。
もちろん、M&Aの詳細を全社員に伝えるタイミングは慎重に判断すべきですが、キーパーソンへの配慮は早い段階から意識しておきましょう。
工事案件ごとの採算管理を見える化する
案件ごとの予算・実績管理が明確にできている会社は、買い手のDD対応もスムーズに進みます。
逆に、案件ごとの原価管理が曖昧な会社は、DDの過程で多くの疑問点が出てきてしまい、交渉が長引いたり、評価額が下がったりする原因になりかねません。
売却を視野に入れるなら、まずは工事台帳の整備から始めてみることをおすすめします。
未成工事支出金の中身を整理する
未成工事支出金は、DDで最も厳しく精査される項目の一つです。
工事ごとに「何の原価がいくら含まれているか」を説明できる状態にしておくことが理想的です。
もし古い工事の原価がそのまま残っていたり、完成済みの工事の原価が振り替えられていなかったりすると、粉飾を疑われる可能性があります。
意図的でなくても、管理が不十分というだけで買い手の心証を損ねることがあるんですよね。
建設業許可や資格の一覧を整備する
保有している建設業許可の種類、有効期限、専任技術者の配置状況、各社員の保有資格を一覧表にまとめておくと、買い手への情報提供がスムーズになります。
こうした基本情報がすぐに出せる会社は、「管理がしっかりしている」という印象を与えることもできますね。
おわりに
建設業・工務店のM&Aにおいて、買い手が最も重視するのは「施工管理技士などの有資格者」と「職人の技術力」です。
建設業許可の維持には有資格者の存在が不可欠であり、人材の継続雇用が売却価格を大きく左右します。
また、財務DDでは未成工事支出金を使った原価の繰り延べや、工事進行基準と完成基準に伴う売上計上のズレなど、建設業ならではのリスクが厳しくチェックされます。
こうしたポイントを事前に理解し、準備しておくことで、M&Aをスムーズに進めやすくなるはずです。
「まだ売却は先の話」と考えている方も、工事台帳の整備や資格者リストの作成など、できることから始めてみてはいかがでしょうか。
準備が早いほど、いざという時に良い条件を引き出しやすくなります。
焦る必要はありません。
一つずつ整理していくことが、納得のいくM&Aへの第一歩になるはずです。

