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M&A・事業承継

M&Aにおける粉飾決算の手口とは?買い手が見抜くべき兆候と調査アプローチ

佐藤

決算書の数字、なんとなく違和感があるけど、どこがおかしいのかうまく説明できない

M&Aで買収先企業の財務資料を見ているとき、こうした「もやもや」を感じることは珍しくありません。

中小企業の決算書は税務目的で作られていることが多く、意図的かどうかにかかわらず、実態とズレた数字が含まれていることがあります。

なかでも深刻なのが「粉飾決算」です。

利益を実際よりも大きく見せるために、売上を水増ししたり、費用を少なく計上したりする行為ですね。

M&Aの場面でこれを見抜けないと、買収価格が実態よりも高くなり、いわゆる「高値づかみ」につながってしまいます。

でも、安心してください。

粉飾にはある程度パターンがあり、見抜くためのアプローチも確立されています。

違和感を入り口にして、一つずつ確認していけば、実態を解明することは十分に可能です。

この記事では、中小企業M&Aで実際に起こりうる粉飾決算の代表的な手口と、買い手としてそれを見抜くための兆候・調査アプローチを解説します。

この記事でわかること

  • 中小企業M&Aにおける粉飾決算の代表的な手口5つ
  • 決算書から読み取れる「粉飾の兆候」となる異常値
  • 月次推移の不自然な動きから違和感を察知する方法
  • ヒアリング・実査・元帳査閲による実態解明のプロセス
  • 財務DD(デューデリジェンス)で粉飾を見抜くための実務的なアプローチ

「数字の裏側を読む力」は、経験だけでなく知識で補える部分が大きいものです。

順番に見ていきましょう。

この記事の全体像

まず、この記事がどのような流れで進むのかを簡単にお伝えしておきます。

はじめに、粉飾決算にまつわる基本的な用語と前提知識を押さえます。
「売上原価」「未成工事支出金」など、会計特有の言葉も出てきますが、かみ砕いて説明しますのでご安心ください。

次に、中小企業でよく見られる粉飾の具体的な手口を5つ紹介します。
それぞれの仕組みをざっくり理解しておくことで、決算書を見る目が変わってきます。

そのあと、粉飾の兆候を見抜くための「違和感の見つけ方」を解説します。
決算書の異常値や月次推移の不自然な動きなど、チェックすべきポイントを整理していきましょう。

最後に、違和感をもとに実態を解明するための調査アプローチを紹介します。
ヒアリング、現物確認、元帳の査閲といった実務プロセスの進め方がわかるはずです。

知っておくべき基礎知識

本題に入る前に、粉飾決算を理解するために必要なキーワードを整理しておきましょう。

粉飾決算

粉飾決算とは、会社の業績を実態よりもよく見せるために、意図的に決算書の数字を操作する行為です。

たとえるなら、テストの答案用紙を書き換えて点数をかさ上げするようなものですね。

M&Aの場面では、売り手企業が「うちはこんなに利益が出ています」と見せかけることで、買収価格をつり上げようとするケースがあります。

また、銀行融資を受けるために長年粉飾を続けていた結果、M&A時にも粉飾が残っているというパターンも少なくありません。

売上原価と売上総利益

売上原価とは、商品やサービスを提供するために直接かかった費用のことです。

仕入代金や材料費、外注費などがこれにあたります。

売上から売上原価を引いたものが「売上総利益(粗利)」になります。

粉飾では、この売上原価を実際よりも少なく計上して、利益を大きく見せるケースが多いのが特徴です。

未成工事支出金

未成工事支出金とは、建設業などで工事が完成する前に発生した原価を一時的に計上しておく勘定科目です。

「まだ完成していない工事にかかったお金」を資産として一時保管するイメージですね。

工事が完成したタイミングで売上原価に振り替えるのが正しい処理ですが、意図的に振り替えを遅らせることで、当期の原価を少なく見せる粉飾手口に使われることがあります。

棚卸資産(在庫)

棚卸資産とは、販売を目的として保有している商品や原材料のことです。

在庫が増えると、その分だけ売上原価が減り、利益が増えるという会計上の仕組みがあります。

この仕組みを悪用して、実際には存在しない在庫を帳簿上に計上する「架空在庫」は、粉飾の代表的な手口のひとつです。

財務DD(財務デューデリジェンス)

財務DDとは、M&Aにおいて買い手が対象企業の財務内容を詳細に調査するプロセスです。

公認会計士や税理士などの専門家が、決算書の正確性や実態純資産、正常収益力などを検証します。

粉飾を見抜く最大の機会がこの財務DDであり、ここでの調査の質がM&Aの成否を左右すると言っても過言ではないでしょう。

中小企業M&Aにおける粉飾決算の代表的な手口

ここからが本題です。

中小企業のM&Aで実際に見られる粉飾の手口を5つ紹介します。

それぞれの仕組みを知っておくことで、「どこを疑えばいいか」が見えてきます。

手口1:架空現金を利用した売上原価の過少計上

中小企業の決算書で「現金」の残高が不自然に多い場合、注意が必要です。

たとえば、実際には外注費や仕入代金を現金で支払っているのに、帳簿上はその支払いを計上しないケースがあります。

支払った分の費用が帳簿に載らないため、売上原価が実際より少なくなり、利益が膨らんで見えるわけです。

一方、支払ったはずの現金が帳簿上は減っていないので、現金残高がどんどん増えていきます。

貸借対照表に載っている現金残高が数千万円にもなっているのに、実際に金庫を開けてみるとほとんど入っていない。

こうしたケースは、架空現金による粉飾を疑うサインになります。

手口2:個人資金を入金した人件費の過少計上

中小企業のオーナー経営者が、個人の資金を会社に入金して、人件費(給与や社会保険料など)の支払いに充てるケースがあります。

帳簿上は「役員借入金」などとして処理されるのですが、肝心の人件費の計上が省略されていることがあるんですよね。

つまり、従業員に給与を支払っている事実はあるのに、損益計算書にはその費用が反映されていないという状態です。

この結果、人件費が実態より少なく計上され、利益が過大に表示されます。

従業員の人数や給与水準から推定される人件費と、決算書上の人件費を比較して、大きな乖離がないかをチェックすることが重要です。

手口3:固定資産の取得を装った架空売上の計上

実際には売上が発生していないのに、架空の売上を計上する手口です。

たとえば、取引先に協力を依頼して、架空の発注書や請求書を作成してもらうケースがあります。

売上の相手勘定として固定資産の取得を装い、「設備を購入した」という形で帳簿を整えることもあります。

この手口のポイントは、売上と同時に資産が増えるため、一見すると帳簿のバランスが取れているように見えることです。

しかし、その固定資産が本当に存在するのか、現物を確認してみると実態がないということが明らかになります。

手口4:外部保管在庫(外注先在庫)の架空計上

在庫を水増しする手口の中でも、特に発見が難しいのが「外部保管在庫」の架空計上です。

自社の倉庫内にある在庫であれば、現物を数えれば粉飾はすぐにわかります。

しかし、「外注先の倉庫に預けてある」「提携先の物流センターに保管している」と主張されると、確認のハードルが一気に上がります。

帳簿上では棚卸資産が増えているため、売上原価が減り、利益は実態よりも大きくなります。

外部保管を主張する在庫がある場合は、保管先への直接確認や在庫証明書の取得が欠かせません。

手口5:未成工事支出金を用いた原価の繰延べ(赤字隠し)

建設業やシステム開発業など、プロジェクト単位で原価が発生する業種で多く見られる手口です。

本来、工事やプロジェクトが完成した時点で原価を売上原価に振り替える必要があります。

しかし、完成しているにもかかわらず「まだ未完成」として原価を未成工事支出金に残しておくことで、当期の売上原価を圧縮できてしまいます。

この結果、赤字のはずの工事が帳簿上は未完成扱いとなり、決算書では利益が出ているように見えるわけです。

未成工事支出金の残高が期末に急増している場合や、長期間にわたって滞留している案件がある場合は要注意です。

粉飾の兆候を見抜く「違和感」の見つけ方

粉飾の手口を知ったところで、次は「どうやってそれを見抜くか」を考えていきましょう。

いきなり帳簿を細かく調べるのではなく、まずは決算書全体から「違和感」を見つけることが大切です。

決算書の異常値に注目する

決算書を見るときに、以下のようなポイントに着目すると粉飾の兆候をつかみやすくなります。

売掛金回転期間の長期化

売掛金回転期間とは、売上が発生してから代金を回収するまでの平均的な日数のことです。

この期間が同業他社と比べて極端に長い場合、架空売上が含まれている可能性があります。

架空の売上は実際には入金されないため、売掛金がいつまでも残り続けるんですよね。

売上高に見合わないキャッシュフローの赤字

損益計算書では黒字なのに、キャッシュフロー(実際のお金の流れ)がマイナスになっているケースです。

利益が出ているはずなのにお金が増えていないということは、利益の質に問題がある可能性を示しています。

「利益は帳簿上の数字、キャッシュは事実」という視点が大切です。

同業他社より高すぎる利益率

業界平均と比較して利益率が明らかに高い場合も、注意が必要です。

もちろん、独自の強みによって高い利益率を実現している企業もあります。

しかし、その根拠が明確に説明できない場合は、費用の過少計上を疑ってみる価値があるでしょう。

現金残高の異常な膨張

先ほどの手口1でも触れましたが、現金残高が売上規模に対して不自然に大きい場合は要警戒です。

中小企業で数千万円もの現金を手元に置いておくことは通常考えにくく、架空現金の可能性があります。

月次推移の不自然な動きを見逃さない

年間の決算書だけでなく、月次の損益推移を確認することも非常に重要です。

期末月だけの売上急増

毎月の売上がほぼ横ばいなのに、期末の3月(決算月)だけ売上が急増しているケース。

これは、期末に架空売上を計上して年間の利益を底上げしている可能性を示唆しています。

原価率の急激な変動

月によって原価率が大きく変動している場合も要注意です。

特に、期末に近づくにつれて原価率が下がっている場合は、原価の繰延べや在庫の水増しが行われている可能性があります。

在庫の不自然な増加トレンド

売上がそれほど伸びていないのに、棚卸資産だけが増え続けている状況は不自然です。

在庫の架空計上や、不良在庫の評価減を行っていない可能性を示しています。

月次推移は年間の決算書だけでは見えない「リズム」を教えてくれます。

数字の動きに違和感を覚えたら、そこが調査のスタート地点になるわけです。

違和感から実態を解明する調査アプローチ

決算書や月次推移から違和感を見つけたら、次はその原因を特定するための調査に移ります。

ここでは、財務DDにおける実態解明の3つのアプローチを紹介します。

アプローチ1:経営者へのヒアリング

最初のステップは、対象企業の経営者や経理担当者へのヒアリングです。

違和感のある数字について、「なぜこの月だけ売上が増えているのですか?」「この売掛金の回収予定はいつですか?」と具体的に質問していきます。

ポイントは、最初から「粉飾を疑っている」という姿勢を見せないことです。

あくまで「事業の理解を深めるため」という自然な流れで質問を重ね、回答の整合性を確認していきます。

曖昧な回答や、質問するたびに説明が変わるようであれば、さらに深く掘り下げる必要がある合図です。

また、「それは経理に聞いてください」「昔からそうなっています」といった回避的な反応にも注意しましょう。

アプローチ2:現物確認(実査)

帳簿上に計上されている資産が本当に存在するかを、自分の目で確認する作業が「実査」です。

具体的には、以下のような確認を行います。

  • 現金:金庫を開けて実際の現金残高を数える
  • 在庫:倉庫に行って棚卸資産の現物を確認する
  • 固定資産:設備や車両などが実際に存在するかを確認する
  • 外部保管在庫:保管先に直接問い合わせる、または現地を訪問する

現金の実査は、事前に通告せずに抜き打ちで行うのが理想的です。

粉飾が行われている場合、事前に通告すると一時的に現金を用意される可能性があるためです。

在庫の実査では、帳簿上の数量と現物の数量を照合します。

数量が合わない場合や、帳簿にある在庫が見当たらない場合は、架空計上の可能性が高まります。

アプローチ3:元帳の査閲(総勘定元帳の確認)

総勘定元帳とは、すべての取引を勘定科目ごとに記録した帳簿です。

決算書は年間の合計値しか表示しませんが、元帳を見ればひとつひとつの取引の内容を確認できます。

元帳の査閲では、以下のような点に注目します。

  • 期末近くに集中している大きな取引はないか
  • 同じ金額の取引が不自然に繰り返されていないか
  • 取引先名や摘要欄の記載に不審な点はないか
  • 決算整理仕訳に不自然なものはないか

特に、決算日直前や直後の仕訳は要チェックです。

粉飾は期末のタイミングで行われることが多いため、決算整理仕訳を一つずつ確認することで、不正な処理を発見できるケースは少なくありません。

3つのアプローチを組み合わせる

ヒアリング、実査、元帳査閲は、単独で行うよりも組み合わせることで効果が高まります。

たとえば、「ヒアリングで在庫の保管場所を確認し、実査で現物を検証し、元帳で取引の詳細を追跡する」という流れです。

ひとつのアプローチで得た情報を別のアプローチで裏付けることで、粉飾の有無をより確実に判断できるようになります。

このプロセスは、経験豊富な公認会計士や税理士の力を借りることが望ましいでしょう。

専門家のサポートを受けながら進めることで、見落としのリスクを大幅に減らすことができます。

具体例:こんなケースに要注意

ここまで解説してきた手口と兆候を踏まえて、実際のM&Aの現場でありがちなケースを整理しておきます。

ケース1:利益率が異常に高い建設会社

同業他社の利益率が5%前後なのに、対象企業の利益率が15%を超えている。

月次推移を確認すると、未成工事支出金が毎期末に大幅に増加しており、完成工事原価への振替が不自然に遅れていた。

原価の繰延べによる利益の水増しが行われていた可能性が考えられるケースです。

ケース2:現金残高が異常に多い卸売業

貸借対照表の現金残高が3,000万円を超えているのに、事業規模は年商1億円程度。

実査で金庫を確認したところ、実際の現金は数十万円しかなかった。

長年にわたり、仕入代金の現金支払いを帳簿に反映していなかったことが判明したケースです。

ケース3:期末だけ売上が急増する製造業

月次の売上推移を見ると、通常月は800万円前後なのに、期末月だけ2,000万円を超えていた。

経営者にヒアリングしても「毎年この時期は忙しい」と曖昧な回答。

元帳を確認したところ、期末月に計上された売上の一部は翌期に返品処理されており、架空売上であったことが判明したケースです。

これらのケースに共通しているのは、「違和感」を見逃さず、そこから丁寧に調査を進めたことで実態が明らかになったという点です。

おわりに

粉飾決算は、M&Aにおいて買い手が最も警戒すべきリスクのひとつです。

しかし、粉飾には一定のパターンがあり、見抜くための手法も体系化されています。

この記事のポイントを振り返っておきましょう。

  • 中小企業の粉飾には、架空現金、人件費の過少計上、架空売上、架空在庫、原価の繰延べといった代表的な手口がある
  • 決算書の異常値(売掛金回転期間、キャッシュフロー、利益率、現金残高)から兆候を察知できる
  • 月次推移の不自然な動き(期末月の売上急増、原価率の変動、在庫の増加)は重要なシグナルになる
  • ヒアリング、実査、元帳査閲の3つのアプローチを組み合わせることで実態を解明できる

大切なのは、「数字に違和感を覚える感度」を持つことです。

何かおかしいと感じたら、その直感を大切にして、一つずつ確認していく姿勢が粉飾の発見につながります。

もちろん、すべてを自力で見抜く必要はありません。

財務DDの経験が豊富な公認会計士や税理士の力を借りることで、より精度の高い調査が可能になります。

焦らず、正しい手順で進めていけば大丈夫です。

この記事が、M&Aにおける財務リスクの見極めに少しでもお役に立てれば幸いです。

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税務に関する実務の勉強記録を残しています。法人税・所得税・消費税・相続税を中心に、業種別のビジネスについても学んでいます。 ※このサイトに記載している内容は、一般的な情報提供であり、個別具体的な事例に関する相談は専門家へご相談ください。
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